兵卒の声

 ――ああ、ああ。  女の声がだんだん微《かすか》な呻吟になってしまいに聞えなくなる。  沈黙。急に大勢の兵卒が槍を持ってどこからか出て来る。兵卒の声。 ――ここに足あとがあるぞ。 ――ここにもある。 ――そら、そこへ逃げた。 ――逃がすな。逃がすな。[#ここから2字下げ]騒擾。女はみな悲鳴をあげてにげる。兵卒は足跡をたずねて、そこここを追いまわる。灯が消えて舞台が暗くなる。[#ここで字下げ終わり]

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[#ここから2字下げ]AとBとマントルを着て出てくる。反対の方向から黒い覆面をした男が来る。うす暗がり。[#ここで字下げ終わり]AとB そこにいるのは誰だ。男 お前たちだって己《おれ》の声をきき忘れはしないだろう。AとB 誰だ。男 己は死だ。AとB 死?男 そんなに驚くことはない。己は昔もいた。今もいる。これからもいるだろう。事によると「いる」と云えるのは己ばかりかも知れない。A お前は何の用があって来たのだ。

— posted by id at 10:37 am  

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