恋愛の法則

 しかしながら、それは、結婚に恋愛の法則をそのまゝ当てはめようとするところから生じる錯誤に基づくものであります。恋愛における対象の「美化作用」は、結婚に於ては、相手の欠点を認容しつゝ、互に長短相補ひ、自他の区別を絶して「家」そのもののうちに融けこむ「同化作用」とならなければなりません。 一心同体の夫婦関係は、恋愛から一歩進んだ、人格の実質的和合を基礎とするものでありますから、「夢」としては一見、華やかさと神秘な翳《かげ》をもつてゐない代り、よりおほらかな、より建設的なものをもつてゐます。例へば、恋愛を天|翔《か》ける「夢」だとすれば、結婚は、地上から足をはなさぬ「夢」です。恋愛は想像と情熱の上に築かれる「夢」ですが、結婚の「夢」は希望と努力のうへに築かれます。恋愛は祈願と追求と、時としては不安のなかに呼吸する「夢」ですが、結婚は、激励と譲歩と、常に信頼のうちに育てられる「夢」であります。

[#7字下げ]三[#「三」は中見出し]

 青年の「夢」は、かういふ風に、人生のあらゆる問題、あらゆる事件に向つて伸びて行きます。この外に、或は海外雄飛の夢となり、発明発見の夢となり、或は弱者救済の夢となり、武功抜群の夢となり、最も卑俗なものに、玉の輿に乗る夢があり、一攫千金の夢があります。 世間でよく、空想家とか夢想家とか云はれる類ひの人々があります。 一概には云へませんが、空想家、夢想家の常識で嗤はれる理由は、まづ第一に、その夢が現実からまつたく浮きあがつて生命のある美しさをもつてゐないこと、第二に、年齢や実力不相応であること、などでありませう。 そこへ行くと、青年は、本来「夢」に生きてゐると云つてもよく、たゞ、その「夢」の美しからんことを望めばよいのです。「夢」の美しさは、日本人としての正しい理想と、青年としての豊かな教養から生れます。そして、何よりも、純真な心を必要とします。世間が「夢のやうな話」と一笑に附するもののうちに、どんな「偉大な夢」がないとは限りません。

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